8-5. 真核生物でのタンパク質発現
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真核生物のタンパク質を同種である真核生物で発現・産生させる方法もある
簡便さでは大腸菌に劣るが、機能性タンパク質が得やすいなどの利点も多く、広く利用されている
1) ピキア発現系
ピキア酵母(pichia pastoris)とそのベクターによるタンパク質大量発現系
ピキアはメタノールを利用(資化)し、アルコールオキシダーゼ(AOX:alcohol oxidase)を強く発現するので、AOXプロモーター下流に目的cDNAを挿入したプラスミドを使用すると、メタノール培地でそのcDNA由来のタンパク質を発現させることができる
タンパク質の修飾が動物細胞に近く、機能性タンパク質の調製が期待できる
2) バキュロウイルス発現系
バキュロウイルス
130 kbの環状二本鎖のウイルス
昆虫(蛾など)に感染して増えるが、ヒトや植物には全く感染せず、無害
実験で使われる核多角体病ウイルスは、感染細胞中においてポリへドリンタンパク質(培養系ではウイルス増殖に必須ではない)からなる封入体(ウイルスを包む構造)を形成するが、ポリへドリンは発現量が多く、全タンパク質の40%程度にまでなる
このポリへドリン産生系を外来タンパク質大量産生系として利用することができる
操作の概要
一般的な方法では2種類のDNAを使用する
目的遺伝子がポリへドリンプロモーター下流に組込まれたトランスファーベクター
増殖欠損型のバキュロウイルスDNA
トランスファーベクターと線状にした欠陥ウイルスDNAを昆虫細胞(e.g. 蛾由来Sf9細胞)に導入すると、細胞内で相同組換えが起こり、ポリヘドリンプロモーター制御下で目的タンパク質が産生される
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バキュロウイルス発現系の利点
バキュロウイルス発現系は操作が煩雑だが、安全で、10 kbまでのDNAを組込めるので大きなタンパク質もつくることができ、産生量も多い
タンパク質が不溶化しにくく、リン酸化や糖付加などの修飾も生理的に近い状態が起こるので、活性のあるタンパク質ができやすい
3) テトラサイクリンによる発現制御系(Tetシステム)
特定の遺伝子の発現を任意のタイミングで、しかも素早く誘導あるいは抑制させる代表的方法に、テトラサイクリン(TC)を使うTetシステム(テトラサイクリン誘導系)がある
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原理
Tetオフ
転写活性化領域と融合させたTetリプレッサーは活性化因子tTA(Tetトランスアクチベーター)として作用を示すが、リプレッサー自身はTCが結合するとTC応答配列(TRE)結合能を失う
そのため、標的プロモーター近傍にTREを置くと、通常はtTAによって転写が起こるか、TC添加が転写が低下する
Tetオン
TC結合によってTREに結合できるようにしたリバースtTA(rtTA)を使う方法
この場合は上とは逆に、TC結合によりrtTAはTREに結合し、標的プロモーターを活性化する
制御因子発現プラスミドと応答プラスミドとも、ゲノムに組込んだ状態で使用する
効果が明瞭に現れるように内在性遺伝子はあらかじめ破壊しておく
遺伝子発現制御とその応用
TCを加えるだけでよいが、実際にはTCより感度のよいドキシサイクリン(Dox)を使う
調節的遺伝子発現が目的であり、大量発現には向かない
調節する遺伝子が非コードRNAでも応用できるので、細菌は遺伝子ノックダウンを行う目的や、shRNAのDNAからの発現を誘導(あるいは抑制)する目的でよく使われている
memo: タンパク質を分泌させて生産する
原核生物であれば枯草菌(バシラス属細菌、納豆菌などが属する)、真核生物であれば真菌類(e.g. コウジカビ)が利用される
この方法はタンパク質を不溶化させることなく産生し続けられる